弊社は毎年ヤマトシロアリのハネアリが群飛する4~5月にかけて「ハネアリ群飛調査」と称して、群飛のタイミングや量、また被害建物の構造や築年数などを調査しています。今回は、その2023年版として、主に群飛のタイミングに着目して深掘りした内容をお届けします。
※2016年~2020年までの5年分のデータから読み取れること
目次
1.群飛(ぐんぴ)とは
シロアリは女王や王を中心とし、職蟻や兵蟻など役割分担をもった多くの個体で集団(コロニー)をつくる社会性昆虫です。そのコロニーの中で新たな女王や王となっていくものを有翅虫(ゆうしちゅう)と言い、これを一般的には”ハネアリ”と呼んでいます。
この有翅虫(=ハネアリ)が、ある時期ある時間帯に巣から一斉に飛び立ち、雌雄対となって新たなコロニーを形成していきます。この多くのハネアリが一斉に飛び立つことを群飛,またはスウォームと言います。
群飛の柚須はこちらの動画をご覧ください。(※閲覧注意)
2.ヤマトシロアリの群飛
その群飛する時期や時間帯はシロアリの種類によって異なります。ヤマトシロアリの場合、沖縄では2月中旬頃から始まり、桜の開花のように季節の移ろいとともに徐々に北上していきます。本州では4月から5月のちょうどゴールデンウィークあたりの時期にピークとなり、その時間帯は昼間に飛び立つことが多いです。ちなみに、イエシロアリの場合は、沖縄では4月後半に、本州では6月頃の夜に群飛します。
弊社では、ヤマトシロアリが群飛する毎年4~5月にかけて「ハネアリ群飛調査」を実施しています。
3.ハネアリ群飛調査の目的
私たちは、120年以上培ってきたシロアリ防除(とりわけ予防方法)のノウハウとナレッジを活かし、住宅シロアリ被害ゼロの実現を目指しています。その実現のために、シロアリ被害に遭われたお住まいの方々への調査ヒアリングデータを蓄積・検証することで、どのようにすればシロアリ被害を未然に防げるのかを導き出す一助になると考えています。これまでに培ってきた経験や知見も大切ですが、データをもとにした「事実」としっかりと向き合い改善に繋げていくこともとても重要だと考えます。
4.2023年のハネアリ群飛調査
4-1.ハネアリ群飛調査 調査条件
・期間:2023年の4月1日~5月31日にかけて
・地域:千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、岐阜県
・対象:ヤマトシロアリの群飛
・方法:点検時の弊社社員によるお住まいの方へのヒアリングと現地調査
・気象:名古屋市を参照
4-2.2023年のハネアリ群飛傾向
ではさっそく調査結果をお見せします。以下が2023年群飛傾向をまとめたものです。
2023年は、4月6日にはじめてハネアリの群飛が確認され、4月16日に小さなピークが発生した後の4月20~21日にかけて一気に確認されました。以下に過去5年間でのその年のはじめのピークが発生した日と気温を載せました。4月20日というタイミングは、過去5年の中で最も早く、2023年の群飛時期は例年に比べ早期の発生であったと言えると思います。
ヤマトシロアリのハネアリは、雨上がりの気温の高い日に発生すると言われています。これについては毎年同様の傾向はみてとれますが、2023年もその傾向は見てとれます。2023年の4月20日の前日19日の天気は薄曇にもかかわらず降水量がわずかに0.5mmあるのは、18日の夕方から夜半過ぎにかけて降った雨が19日の記録として表れているもので、日中は時折晴れ間も出る薄曇の天気でした。前日からの雨と曇りがちな天気もあり、19日の平均湿度は82%と非常に湿度の高い一日でした。そして次の日20日は最高気温27.5℃と一気に上昇したことで、群飛条件を満たしたと考えられます。
年 | はじめのピーク | 前日天気 | 当日最高気温 | 最高気温 前日差異 |
3月の 平均気温 |
4月の 平均気温 |
2018年 | 4月25日 | 雨(34mm) | 22.7℃ | 1.9℃ | 11.2℃ | 16.5℃ |
2019年 | 4月25日 | 雨(12mm) | 25.7℃ | 5.5℃ | 10.1℃ | 14.1℃ |
2020年 | 5月1日 | 晴(0mm) | 26.9℃ | 0.9℃ | 10.7℃ | 13.4℃ |
2021年 | 4月30日 | 雨(41mm) | 24.1℃ | 6.1℃ | 12.0℃ | 15.2℃ |
2022年 | 4月25日 | 雨(7mm) | 28.1℃ | 9.9℃ | 11.0℃ | 16.8℃ |
2023年 | 4月20日 | 薄曇(0.5mm) | 27.5℃ | 4.5℃ | 12.7℃ | 15.9℃ |
4-3.桜の開花と群飛傾向とには相関はあるのか?
2023年の群飛傾向として特徴的なことは、前述の通り過去最高に早期発生したことが言えます。昨年2022年も比較的早期と言えますが、その他の年に比べれば5~10日も早いものでした。この年は桜の開花も例年に比べ1週間ほど早く、似たような傾向が見られています。
桜の開花とヤマトシロアリの群飛傾向とには相関はあるのでしょうか?
まず、次の図表をご覧ください。各年の桜の開花日と群飛のはじめのピークを並べました。
年 | はじめのピーク | 4月の平均気温 |
2018年 | 3月19日 | 4月25日 |
2019年 | 3月22日 | 4月25日 |
2020年 | 3月22日 | 5月1日 |
2021年 | 3月17日 | 4月30日 |
2022年 | 3月22日 | 4月25日 |
2023年 | 3月17日 | 4月20日 |
※名古屋の平年の桜の開花日は3月24日
こちらの図表から読み取れることは、桜の開花のおよそひと月後あたりに群飛が起こると言えそうですが、桜の開花が早い年は群飛も早いというような相関はここからだけでは読み取ることはできなさそうです。
しかし、よくハネアリの群飛は桜前線に例えられることもありますし、私の個人的な経験上からは、暖かい春だった年は群飛も早い傾向があるような”肌感覚”はあります。群飛の発生因子の一つには、少なからず桜の開花と似たような関係因子が存在するのではないかと推測します。
4-4.群飛のはじめのピークはいつ発生するのか?
桜の開花日には『400℃の法則』・『600℃の法則』というものがあります。これは、2月1日からの日々の平均気温の累計で400℃,日々の最高気温の累計で600℃に達する頃に桜が開花するというものです。
桜の開花とハネアリの発生との間に単純な相関関係は見られないものの、それでも似たような関係因子は存在するのではないかという仮説に対して、この法則になぞらえて考察してみました。
まず、桜の開花とハネアリの発生とはおよそひと月の差がありますので、2月1日からの気温の累計ではなく3月1日からの気温の累計に着目することにしました。
(当社では過去に、桜の『400℃の法則』・『600℃の法則』になぞらえて、『1100℃の法則』・『1300℃の法則』(雨上がり・晴天・気温上昇の条件に加えて、2月1日からの日々の平均気温の累計で1100℃,日々の最高気温の累計で1300℃を超えた頃に群飛が発生する)というものを提唱していましたが、桜の開花と同様に直前2か月の気温の影響度の方が高いであろうと推測し、今回はそれを上書き更新するようなかたちで再考察しました。)
各年3月1日からの平均気温の累計と最高気温の累計を、はじめのピーク発生の1週間前から表示させました。(2021年は除く)
年 | 日(4月) | 3月1日からの 平均累計(℃) |
3月1日からの 最高累計(℃) |
降雨 | 最高気温(℃) |
2018 |
19 | 631.3 | 935.1 | ー | 25 |
20 | 650.9 | 962.1 | ー | 27 | |
21 | 670.7 | 989 | ー | 26.9 | |
22 | 691.8 | 1018 | ー | 29 | |
23 | 712 | 1043.6 | ー | 25.6 | |
24 | 730.4 | 1064.4 | 有り | 20.8 | |
2019 |
19 | 551 | 821 | ー | 22.2 |
20 | 566.5 | 842.8 | ー | 21.8 | |
21 | 584.3 | 867.1 | ー | 24.3 | |
22 | 605.3 | 895.5 | ー | 28.4 | |
23 | 624.9 | 920.1 | ー | 24.6 | |
24 | 643.3 | 940.3 | 有り | 20.2 | |
2020 |
25 | 650.7 | 948 | ー | 19.7 |
26 | 666.8 | 970.4 | ー | 22.4 | |
27 | 682.5 | 991.7 | ー | 21.3 | |
28 | 697.3 | 1012 | ー | 20.3 | |
29 | 713.6 | 1036.3 | ー | 24.3 | |
30 | 732.3 | 1062.3 | ー | 26 | |
5/1☆ | 752.8 | 1089.2 | ー | 26.9 | |
2021 |
20 | 661.6 | 935.1 | ― | 25.3 |
21 | 680.8 | 963 | ― | 27.9 | |
~ | ~ | ~ | ― | ~ | |
27 | 779.1 | 1098.7 | ― | 21.2 | |
28 | 794.9 | 1118.2 | 有り | 19.5 | |
29 | 810.8 | 1136.2 | 有り | 18 | |
30☆ | 827.7 | 1160.3 | ― | 24.1 | |
2022 |
16 | 598.4 | 867.7 | ― | 20.6 |
17 | 610.9 | 882.2 | 有り | 14.5 | |
18 | 624.5 | 897 | 有り | 14.8 | |
19 | 640.6 | 920.2 | ― | 23.2 | |
20 | 657.4 | 943.9 | ― | 23.7 | |
21 | 673.7 | 965.3 | 有り | 21.4 | |
22☆ | 693.4 | 990.5 | ― | 25.2 | |
2023 |
14 | 611.7 | 879.2 | ― | 23.9 |
15 | 625.1 | 895.5 | 有り | 16.3 | |
16 | 641.2 | 916.8 | 有り | 21.3 | |
17 | 654.9 | 935.8 | 有り | 19 | |
18 | 668.8 | 956.9 | 有り | 21.1 | |
19 | 686.2 | 979.9 | 有り | 23 | |
20☆ | 706.7 | 1007.4 | ― | 27.5 |
※その年の群飛のはじめのピーク
こちらの表を見ると、始めのピーク発生日までの気温累計は、『平均』のほうで700℃足らずの年もあれば800℃を超える年もあり、『最高』のほうで1000℃に満たない年もあれば1160℃を超える年もありと、かなりのバラつきが見られます。これは、ハネアリの発生には、前日の降雨や気温上昇の影響を大きく受けるため、累計の気温だけでは単純には測れないということを示していると思われます。これが、桜の開花と群飛のピーク日との単純な相関が見られない要因であろうと考えます。
しかしながら、降雨や気温上昇は直前の群飛条件であり、準備条件ではありません。この群飛のための準備条件は、累計の気温に影響を受けるところがあるのではないかと考えます。上記の表から、3月1日からの平均気温の累計でおよそ650℃、最高気温の累計でおよそ950℃ほどとなった頃にハネアリ発生のための準備が整った状態になるのではないかと推測します。それらの累計気温となる頃にハネアリは群飛準備が整い、直前条件である降雨と気温上昇が起こることを今か今かと待ち構えているのではないかと思われます。つまり、『650℃の法則』『950℃の法則』の準備条件が整った後の『降雨』と『気温上昇』が起きたタイミングでその年のはじめのピークが発生するものと思われます。そして、一度ピークを迎えたあとは日々多かれ少なかれ群飛が確認されていることからも、以降は必ずしも直前条件に寄らず飛び立つようになると思われます。
5.まとめ
今回は2023年春に実施したヤマトシロアリのハネアリ群飛調査について、群飛発生のタイミングについての考察をいたしました。
今回の考察をまとめると、
・2023年のヤマトシロアリの群飛時期は例年に比べ早期の発生であった
・雨上がりの気温の高い日に群飛するという条件は、2023年も当てはまった
・桜の開花との群飛発生には単純に相関関係があるとは言い切れない
・3月1日からの平均気温の累計でおよそ650℃,最高気温の累計でおよそ950℃となった頃に群飛のための準備条件が整う(『650℃の法則』『950℃の法則』)
・その準備条件が整った後の『降雨』と『気温上昇』が最後のトリガーとなりその年のはじめのピークを迎える
今回の調査ではハネアリの群飛タイミングについて考察をおこない、『準備条件』と『直前条件』の2つの因子が複合して発生しているのではないかという、ひとつの仮説を打ち出すことに繋がりました。こうしたより深い考察ができるようになってきたのには、毎年このハネアリ調査を続けてきているからに他なりません。このような地道な基礎研究の積み重ねが、シロアリの生態をより紐解くことに繋がっていきます。そして、より理解が深まれば新たな防除方法の開発に繋がっていく可能性も広がっていきます。
シロアリ防除の老舗として、そしてまたリーディングカンパニーとして、これからもナレッジを積み重ね皆様に貢献して参りたいと思います。