弊社は毎年ヤマトシロアリがのハネアリが群飛する4~5月にかけて「ハネアリ群飛調査」と称して、群飛のタイミングや量、また被害建物の構造や築年数などを調査しています。今回は、その2022年版をご紹介します。
目次
1.群飛(ぐんぴ)とは
シロアリは女王や王を中心とし、職蟻や兵蟻など役割分担をもった多くの個体で集団(コロニー)をつくる社会性昆虫です。そのコロニーの中で新たな女王や王となっていくものを有翅虫(ゆうしちゅう)と言い、これを一般的には”ハネアリ”と呼んでいます。
この有翅虫(=ハネアリ)が、ある時期ある時間帯に巣から一斉に飛び立ち、雌雄対となって新たなコロニーを形成していきます。この多くのハネアリが一斉に飛び立つことを群飛,またはスウォームと言います。
2.ヤマトシロアリの群飛
その群飛する時期や時間帯はシロアリの種類によって異なります。ヤマトシロアリの場合、沖縄では2月中旬頃から始まり、桜の開花のように季節の移ろいとともに徐々に北上していきます。本州では4月から5月のちょうどゴールデンウィークあたりの時期にピークとなり、その時間帯は昼間に飛び立つことが多いです。ちなみに、イエシロア
リの場合は、沖縄では4月後半に、本州では6月頃の夜に群飛します。
弊社では、ヤマトシロアリが群飛する毎年4~5月にかけて「ハネアリ群飛調査」を実施しています。
3.ハネアリ群飛調査の目的
私たちは、120年以上培ってきたシロアリ防除(とりわけ予防方法)のノウハウとナレッジを活かし、住宅シロアリ被害ゼロの実現を目指しています。その実現のために、シロアリ被害に遭われたお住まいの方々への調査ヒアリングデータを蓄積・検証することで、どのようにすればシロアリ被害を未然に防げるのかを導き出す一助になると考えています。これまでに培ってきた経験や知見も大切ですが、データをもとにした「事実」としっかりと向き合い改善に繋げていくこともとても重要だと考えます。
4.2022年のハネアリ群飛調査
4-1.ハネアリ群飛調査 調査条件
・期間:2022年の4月1日~5月31日にかけて
・地域:千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、岐阜県
・対象:ヤマトシロアリの群飛
・方法:点検時の弊社社員によるお住まいの方へのヒアリングと現地調査
・気象:名古屋市を参照
4-2.2022年のハネアリ群飛傾向
ではさっそく調査結果をお見せします。以下が2022年群飛傾向をまとめたものです。
2022年は4月11日にはじめてハネアリの群飛が確認され、4月22日に小さなピークが発生した後の4月25日に一気に確認されました。以下に過去5年間でのその年のはじめのピークが発生した日と気温を載せました。4月25日というタイミングは、昨年,一昨年と比較すると5日ほど早いですが、2018年,2019年も同じ4月25日であったことを考えると、2022年の群飛時期は例年並みであったと言えると思います。
ヤマトシロアリのハネアリは、雨上がりの気温の高い日に発生すると言われています。2022年の特徴としてもその傾向は見てとれます。(4月22日,4月25日,4月27日など)この年の特に特徴的なことは、前日からの気温上昇が最高気温で10℃近くもあり、当日の最高気温も28.1℃と夏日を大きく超えるほどの4月としてはかなり暑い日の発生であったことです。この急激な気温上昇が、前日の降雨は7mmとやや少な目であったものの一気に群飛した要因の一つではないかと考えています。
年 | はじめのピーク | 前日天気 | 当日最高気温 | 最高気温前日差異 | 4月の平均気温 |
2018年 | 4月25日 | 雨(34mm) | 22.7℃ | 1.9℃ | 16.5℃ |
2019年 | 4月25日 | 雨(12mm) | 25.7℃ | 5.5℃ | 14.1℃ |
2020年 | 5月1日 | 晴(0mm) | 26.9℃ | 0.9℃ | 13.4℃ |
2021年 | 4月30日 | 雨(41mm) | 24.1℃ | 6.1℃ | 15.2℃ |
2022年 | 4月25日 | 雨(7mm) | 28.1℃ | 9.9℃ | 16.8℃ |
4-3.群飛の発生メカニズムはわからないことだらけ?
過去5年のデータからも、群飛のピークは降雨のあった翌日に起こることが多いと読み取れますが、唯一2020年だけは前日に降雨は発生していません。これは前日の気温差が1℃ほどしかないことからもわかる通り、夏日となる気温の高い日が続いていました。暑い日が続いたことでシロアリたちもしびれを切らしたのか、降雨を待たずして群飛したのかもしれません。降雨が群飛のトリガーの一つであることは間違いないと言えますが、絶対条件である訳ではないようです。
また、2018年は前日に降雨はあったものの、当日の最高気温は22.7℃と他の年と比較して低く、前日からの気温上昇もさほど大きくはありませんでした。しかしこのタイミングでピークを迎えたのには、実はこの年の4月の平均気温は過去20年間で2番目に高く、一か月通じてでは非常に暑い4月であったことが影響しているのではないかと推測します。
このようにハネアリの発生条件は恐らく多くの要素が複雑に絡んでいると思われ、単純に「雨上がりの気温の高い日」ということだけでは説明できないこともあります。まだまだ分からないことだらけの群飛条件ですが、いつかこのメカニズムの解明をできるように今後も調査を続けてまいります。
4-4.ハネアリ群飛と「建物構造」・「築年数」との関連性
群飛が発生した建物構造、築年数について見ていきます。
群飛が確認された建物構造は、その70%を木造住宅が占めていました。これについては昨年2021年とほぼ同じ傾向です。(2021年のデータはこちらを参照)ここから、木造住宅にとってシロアリは要注意な存在であるということが改めてわかります。しかし、鉄骨造やRC(鉄筋コンクリート)造の非木造の建物からも群飛は発生しており、鉄骨造だから,鉄筋コンクリート造だからシロアリ被害には遭わない、とは言えないということがわかります。つまり、どのような建物構造であっても、シロアリ被害は発生すると言えます。
次に群飛の確認された建物の築年数について見ていきます。
まず、最も多かったのは築20年以下の建物でした。しかもそのうち、およそ4割が築10年未満の建物で、中には築5年未満の新しい建物も複数件ありました(築2年というものも)。新築時には多くの場合はシロアリ防除工事がおこなわれています。しかしそれは必ずしも実施しなければならないことではないため、シロアリ防除専用薬剤による処理がなされていない建物も存在します。特に近年、基礎パッキン工法のみで済ませることやホウ酸処理などの広まりもあり、新築時にシロアリ防除専用薬剤による処理が実施されていない建物が増えていることも一因として考えられます。
これらのことから、新しい建物であればシロアリ被害は発生しないということではなく、シロアリ被害と建物の築年数には相関はないと言えます。
4-5.ハネアリ群飛と「シロアリ保証」との関係性
続いて、ハネアリ群飛の発生とシロアリ保証状況との関連性について見ていきます。ハネアリが群飛した建物のうち85%がシロアリ保証がない状態でした。つまり、ハネアリが発生した建物の多くが適切な時期にシロアリ防除工事がおこなわれていなかったということです。シロアリ防除工事をおこない薬剤効果が残る保証期間中の建物であれば、多くのシロアリ被害を防ぐことが可能であると言えると思います。
しかしながら、逆に言えばシロアリ保証中の建物からの発生も『ゼロ』ではないということです。その保証中の建物のハネアリ発生箇所を確認すると、多くは外部から発生し飛来したもので建物から発生した訳ではありませんでした。シロアリ保証中であるにも関わらず、実際に建物にまで被害が確認されたものは6件のみでした。当社のシロアリ保証期間中の被害発生率は1%未満です。つまり99%以上の建物はしっかりと守ることに成功しています。今回の調査確認された6件は、当社保証期間中の全体からすると1%未満となりますので、これまでの実績通りの非常に高い防除結果を示すことができました。
しかし、本来であるならばシロアリ防除をおこなったのであれば100%守ることができなくてはなりません。それに対してはまだまだ道半ばです。駆除方法や防除薬剤の研究や施工技術の訓練を重ね、更に施工技術を高めて参ります。
5.まとめ
今回は2022年春に実施したヤマトシロアリのハネアリ群飛調査についてお伝えしました。
今回のデータから読み取れることまとめると、
・2022年の群飛時期は例年並みだった
・群飛のタイミングは「雨上がりの気温の高い日」が条件の一つだが、それだけでは説明できないこともある
・木造はもちろんのこと、どのような建物であってもシロアリ被害は発生する
・シロアリ被害と建物の築年数には相関はない
・シロアリ保証期間中であれば多くの場合でシロアリ被害は防ぐことができる
このように今回の調査では、ハネアリの群飛傾向だけでなく、改めてシロアリ防除工事の有効性についても見えました。しかし、毎年こうしてハネアリ調査を続けていて感じることは、ハネアリが発生してから対処するのではなく、この発生自体をもっと防ぐことができないかということです。そのためには、前述のデータでも見えた通り、シロアリ被害に遭わないためには定期的にシロアリ防除をおこない予防しておくことが可能です。予防に勝る効果はないです。本来遭うはずのなかった被害をこの世から消すことができる日が来るまで、今後もシロアリ予防方法のノウハウとナレッジを蓄積し、飽くなきその技術探求と啓蒙を続けて参ります。
そして、建築会社様におかれましては、皆様の大切なお施主様に悲しい思いをさせないためにも、定期的な住まいの点検の実施を促していただければと思います。