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2025.01.10

シロアリの味覚

今回はシロアリの味覚について着目していきます。

1.はじめに

一般的にシロアリが食べるのは木材であると皆さんご存じかと思います。

世界各地に生息しているシロアリの食性は、木材に枯死木や林床のリター、地衣類や土壌有機物など種類によって様々です。

それに加えてシロアリ業者から見て、コンクリートやタイル、断熱材の発泡スチロールなどにも穴をあけてかじるというイメージがあります。

食べ物としているのではなく、食物として木材を摂取しつつ、そのほかのものについては木材等の表面に付着させたり、蟻道や隔壁の形成に用いています。

2.食性

ではかじったものの判別はどのように行なっているのでしょうか?

一般的に昆虫は食物中の栄養となる物質および摂食に不適切な物質を検知するのに適した味覚感覚を持っています。

ほとんどの昆虫では炭素源として糖類・でんぷんが重要であり、窒素源としてはアミノ酸・タンパク質が必要となってきます。

シロアリについては若干様相が異なり、炭素源としては木材中のセルロースを栄養源として活動しており、体内で糖類へと分解し栄養としています。窒素源については老廃物である尿酸の分解、再利用や共生窒素固定化細菌から得ています。

そのためほかの昆虫に比べて糖類やアミノ酸を摂食する必要性が乏しいと考えられており、

他昆虫とは違った味覚感覚によって食物を選択していると考察できます。

一方で、糖類や数種のアミノ酸など水溶性の高極性物質の中にはシロアリの摂食行動を促進させる物質もあり、共通点もあります。

その他にも蒸煮処理カラマツ材の熱水抽出物やキチリメンタケ腐朽材の水抽出物などにも摂食促進作用が見られ、餌として適切なものの例となっています。

またミゾガシラシロアリ科の一種では唾液を食物につけてから摂食する習性があり、集合フェロモンの役割をはたしていることがわかっています。さらには唾液中に存在する水可溶性成分のハイドロキノンがシロアリ共通の摂食刺激フェロモンであるという報告も上がっています。

その一方で、一般的に抗蟻性成分としてあげられるテルペン類やフラボノイド類など有機溶媒可溶の低極性物質も知られています。

こういった食物嗜好性に関する知見はシロアリの摂食試験を中心とした行動実験によって得られたものです。

 

3.受容器

もう一つの実験として、昆虫の体表には感覚子と呼ばれる感覚器官が存在しています。

外からの刺激によってにおいや味、フェロモンなどの科学刺激、光や音、熱や圧力などの物理刺激を各感覚子を介して内部の感覚受容細胞へ伝達して知覚します。

感覚子の形態的特徴は昆虫全般で共通性があり、味覚感覚子についてはクチクラ装置の先端に孔が1つあり縦にいくつもの溝があります。その基部には昆虫の種類によって差異があるものの、2〜7個の受容細胞が存在します。

味細胞は刺激を受容すると電気信号であるインパルスを生じさせ、軸索を通じてその情報を脳に伝えます。

そのインパルスの大きさを計測してそれによって化学物質がどの細胞に影響を与えたのかがわかります。(チップレコーディング法)

ネバダオオシロアリの実験では好む材料としてアカマツ辺材の水抽出液を、嫌う材料としてニームの水抽出液を味刺激として投与し、味覚応答の違いを計測しました。

その結果、アカマツ水抽出液を与えた場合、応答開始直後から持続的なインパルスが発生し、ニーム水抽出液を与えた場合では応答開始直後にはインパルスが発生したものの急速に減衰した結果となりました。

 

4.まとめ

以上の事からシロアリには味覚が存在し、フェロモンや受容体によって食物とその他を判別していることが分かりました。

現在化学物質を少なくし、自然由来の成分を使用した薬剤が望まれる背景もあり、

天然物由来のシロアリ忌避物質に期待が集まっています。

その中で、シロアリの食性に合わせた摂食阻害物質や摂食促進物質、フェロモンなどの解析理解が進めば、効率的で環境に配慮したシロアリ防除法を構築していくことも可能になると思います。