2022年11月26・27日に近畿大学農学部にておこなわれた第34回日本環境動物昆虫学会の年次大会へ参加して来ました。今回はその報告をいたします。
1.日本環境動物昆虫学会とは
日本環境動物昆虫学会とは、人間の生活環境を清潔,快適であるために、昆虫および動物の学術的・総合研究の発展ならびに被害防止技術の向上を促進することを目的としている学会で、様々な環境動物および環境昆虫の研究発表やシンポジウムなどを開催されています。
今回はその日本環境動物昆虫学会の第34回年次大会へ参加して参りました。
2.第34回 日本環境動物昆虫学会年次大会の内容
2日間にわたり数多くの講演や研究発表がおこなわれました。トンボやミツバチ、カマキリやトビムシ、ヒアリにアルゼンチンアリなど、多種多様な生物に関する研究発表がおこなわれました。そのなかでも、とりわけシロアリ(ヤマトシロアリやイエシロアリ)に関する研究発表が多くあり、シロアリ研究の注目度の高さと今後の可能性を感じました。
また、一般の方にもひらかれた市民公開シンポジウムも開催され、増え続ける外来生物によって引き起こされる問題やその防除または管理方法についての最新研究の発表とともに、今後の引き起こされてくるであろう生物環境の未来予想なども少し語られ、大変示唆に富むものでした。
3.シロアリに関する研究発表から
シロアリ防除業に携わる者として、シロアリに関する研究発表は最も興味深く視聴させていただきました。シロアリに関する研究発表では、マイクロRNA解析によるシロアリの遺伝子レベルでの研究や、同巣のシロアリとそれ以外かをシロアリがどのように認識区別しているか?であったり、同じ材でも硬さによってどのようにシロアリの食害が変化するのか?であったりと、興味深いものでした。
同巣の認識区別の研究では、「それぞれ数100mほど離れた位置にある複数のイエシロアリのコロニー(巣)から採取したシロアリどうしは敵対行動を示さなかったが、数10㎞離れた隣の市のコロニーから採取したシロアリとは敵対行動を示した」とのことでした。このことから、遺伝的に近縁であれば敵対行動は示しにくくなる事は知られていますので、敵対行動を示さなかったシロアリどうしは遺伝的に近い関係,言わば『親戚』のようなものであると言えると思います。イエシロアリの場合、数100mレベルの範囲にあるコロニーは、元は同じコロニーから派生した『分家』である可能性があるかもしれません。しかしながら数10㎞離れたコロニーとでは敵対行動を示すことから、さすがにそれだけ離れてしまうともはや『分家』ではなく、別の『家系』となるようです。
今回のこの研究発表から、イエシロアリ同胞コロニーのエリア範囲がどの程度であるのか(少なくとも数100m以上ではある),またそれはどのくらいの時間をかけてそこまで広がるものなのか?(エリア拡大スピード)を調査してみるのも面白いのではないかと思いました。それを調べていけば、イエシロアリの同胞家系勢力マップがつくれそうですね。それができたその先に、「このエリアのイエシロアリ家系は食欲旺盛だから気を付けた方がいい」であったり、逆に「このエリアのは比較的おとなしい家系だ」など、その家系による違いや特徴などがわかったらシロアリ防除にも役立ちそうです。また、同じことがヤマトシロアリの場合はどうなのか?そちらも気になるところです。
個人的にはシロアリ研究意欲を非常に刺激される発表でした。
4.外来生物から守るのは私たち人間のため
市民公開シンポジウムでは、外来生物に関する講演がありました。外来生物とは、アメリカザリガニやアカミミガメ(ミドリガメ),そして近年話題となることの多いヒアリなど、元々日本に生息していた訳ではなく、海外から自然にもしくは人為的に日本に侵入した生物のことを言います。これは輸出入が拡大すればするほど絶対に避けることのできない問題であり、グローバル社会となった人間社会が創り出した問題であるとも言えます。
学会の先生方の講演のなかに、「外来生物から守るのは私たち人間の為である」というお話がありました。外来生物をテーマにした話題の場合、とりわけ生態系を守ることや在来生物を守ることなどの、昔ながらの風土・環境・生物を守ることに目が向きがちですが、実はもっと利己的でエゴイスティックとすらも言えるような私たち人間自身を守るための活動である、ということでした。わかりやすいたとえとして、コロナウイルスの事例が挙げられていました。ある特定の生物を宿主として何の害もなくひっそりと暮らしていた細菌やウイルスが、その宿主生物を取り巻く環境変化によって巡り巡ってこれまであまり接触のなかった人間や家畜などに接触することで、その細菌やウイルスが宿主以外の生物に思わぬ害をもたらしてしまうことがあるということでした。そのためそのような環境変化やこれまで出会うことのなかった生物同士の意図せぬ接触は、人類に多大な悪影響を及ぼすことに繋がるそうです。だから外来生物を防除し管理しなければならないのであり、その手を緩めればこれからも昨今のようなパンデミックはいくらでも起こり得るということです。
私たち人類はより豊かになるためにグローバル社会を選択しました。人や物があらゆる国や地域を移動する現代では、それと一緒になって生物も移動することは避けられません。グローバル社会を選んだ以上、私たちは外来生物を防除管理し続ける宿命を負っていると言えると思います。
一説には、ときに建物に非常に甚大な被害を及ぼす日本のシロアリとしてすっかり定着しているイエシロアリも、元は外来生物であったと言われます。また、まだまだ大きく騒がれることは少ないかもしれませんが、アメリカカンザイシロアリという外来シロアリが、日本においても生息域を広げています。(アメリカカンザイシロアリの研究についてはこちら)
外来生物がもたらす悪影響は目に見える直接的な被害だけではなく、巡って思いもよらない悪影響をもたらす場合がありますので、この外来シロアリについても大きな問題として扱われていないからと言って、放置して良いものではないと言えるかと思います。
5.まとめ
シンポジウムの中で、外来生物から人間を守るための効果的な防除方法や管理方法の研究については、外来生物の生態や現況のなどの研究に比べると、やや遅れている研究分野であると言われていました。私たちは120年以上にわたって個人宅から木造の社会インフラや文化財に至るまで、シロアリという生物の防除・管理方法の実務と研究を重ね続けてきた企業です。そのような私たちであればこそ、地球や人間社会のためにこれからいっそう重要な役割が求められていると感じます。これからも日々研究と技術研鑽を重ね、社会課題解決のために大きな役割を果たせる企業であり続けて参りたいと思います。