薬剤は日進月歩
シロアリ防除に使用する薬剤は多種多様なものが有り、昔と現在では使用できる薬剤も日進月歩で変化しています。シロアリ防除薬剤は危険なのか?それとも安全なのかを簡単にまとめた内容です。
[薬剤の遍歴]
明治から昭和(終戦直後)まで使用されていた薬剤は砒素化合物です。シロアリの習性を熟知した研究者が砒素化合物を有効に使用する事で駆除が完全に出来ると言われていました。またこの時代は予防という概念はなく蟻害から建造物を守るという考えでした。その後、昭和28年には建築基準法に対応するよう日本建築学会にて建築工事標準仕様書が作成され、木材防腐処理と木材防蟻処理が作成されました。この頃から予防という概念も生まれてきています。この当時の防蟻薬剤は有機塩素系薬剤のクロルデン等が使用されています。このクロルデンも昭和58年に劇物指定令の一部改正に伴い使用が厳しくなり、新たな薬剤への切り替えに進みました。昭和62年頃から新剤として出てきたのが有機リン系薬剤となります。代表的なものとしてはクロルピリホス・ホキシム・ピリダフェンチオン等が有ります。これら有機リン系薬剤は農薬としてはとても効果が高くリスクの少ない薬剤と言われています。しかし住宅においてはシックハウス症候群などの問題もあり2003年建築基準法改正により使用が出来なくなっています。現在は合成ピレスロイド系薬剤・ネオニコチノイド系薬剤・フェニルピラゾール系薬剤・カーバメート系薬剤・ホウ素系薬剤等が使用されています。
[薬剤の毒性とは]
薬剤にはSDS(安全データシート)と言う物が有り薬剤に含まれている成分等が記載されています。そのデータにはLD50(半数致死量)やADI(生涯摂取許容量)と言う値が記載されています。この数値は大きいほど毒性が低く小さいほど毒性が高くなります。ちなみに亜ヒ酸の急性毒性は:経口:ラットLD50=42mg/kg 食塩(塩化ナトリウム)の急性毒性:経口:ラットLD50=3000~3500mg/kgとなっています。
体重60Kgの人が2.52gの亜ヒ酸を口から摂取すると半数の人が死に至る量となります。体重60Kgの人が180gの食塩を口から摂取すると半数の人が死に至る量となります。この数値が物質自体が持つ毒性です。近年防蟻処理剤に使用されている薬剤の毒性は、食塩などに値が近くLD50値:2000~3000mgと言う物が多く存在しています。
また自然の物が安全と思いがちですが、自然の物でもトリカブトはLD50:2~6㎎/kgととても高い毒性となっています。
薬剤の毒性も重要なポイントですが、薬剤の剤型も毒性に影響します。薬剤剤型には乳剤・水和剤・フロアブル剤・マイクロカプセル剤・油剤・粉剤等多くの型が存在します。それぞれ使用環境により向き不向きが有ったり、主成分によっての向き不向きもあります。近年ではマイクロカプセル剤(極小のカプセル)に主成分を閉じ込め人体への影響をより軽減させているものも使用されています。
[安全性の考え方]
どれだけ安全性が高い薬剤とはいえ使用方法を間違ってしまえば猛毒にもなります。
例えば皆さんが病院等で処方される飲み薬も、一気に大量に摂取すれば中毒や場合によっては死に至る事もあります。また、薬ではなくても塩や砂糖・アルコール等も短時間で大量に摂取すると死に至りる事もあります。
次に自動車に置き換えて考えてみましょう。最近の自動車は安全装置が多数装備され事故が起きにくいよう製造されています。しかしどれだけ安全装置が良質なものになっても、運転する人のマナーが悪ければ大事故に繋がります。制限速度を大幅に超え、信号を無視して交差点に入る。このような運転の仕方ではどれだけ安全装置が付いていても、重大事故が発生してもおかしくありません。
この事からも何を使用していくのか、どのように使用するのかがとても重要と言えます。
しろあり防除業界では、薬剤の取り扱いや施工方法の基準を(公社)日本しろあり対策協会の「防除施工仕様書」や「しろあり防除施工士」と言う資格認定制度を設け基準としています。
まとめ
しろあり防除剤が安全か?危険か?という問については、安全性の高い薬剤を環境に配慮し使用すれば安全と言えます。逆にどれだけ安全性が高い薬剤でも、建物の内外に無作為に散布すれば危険が生じます。専門知識を持ち施工実績をしっかりと積んだ人が防除施工施工する事で安全が確保されると思います。